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ウォーターネットワーク代表・柴崎によるコラム
〔2001年9月〜2002年6月〕

コラムについてご意見やご感想がございましたら、是非、柴崎宛にメールをお送りください。

2002/06/29:こんこんと湧きつづける水

今年の10月7日に明治神宮本殿前で「森の音、水の響き」コンサートを実施させていただく。

東京のど真ん中にある明治神宮は、年間800万人以上と参拝客が日本で一番多い神社だ。鬱蒼と繁る杜に囲まれ一歩その中に足を踏み入れると、その清浄な空気と静けさは大都会の中にいるとは到底思えない。

この森が人々の手によって造られた人工の森ということを知る人は少ない。80年前、ここは畑や草原の荒地だったそうだ。明治45年(1912)に明治天皇がご崩御され神宮建設を願う人々の請願運動から始まった。

日本林学、造林学の父・本多静六を中心とする時の精鋭の学者たちは、神社の杜は杉林という常識を覆して、この地に最も適するシイ、カシ、クスなどの常緑広葉樹の森とすることが決められた。全国から寄せられた献木は、約370種、約10万本に及び、その設計は自然の力によって後に続く森林を造る「天然更新」をもとに行なわれた。100年後、はるか後世を見越して設計され、自然の全国から集まった延べ11万人の青年たちの勤労奉仕によりこの杜は造られた。

造営から約80年、神宮の杜はほぼ計画した通りに育まれてきた。林苑計画には、落ち葉の処理や記念植樹など、杜管理に関しての記述が詳細に書かれているそうだ。

木々の落葉は森に戻される
美しい水が湧きつづける清正井

「落ち葉はすべて杜に返すべし」その教え通りに、落ち葉は掃き集めて処分したりせず、すべて杜に返されている。参道を歩くと森の土が1m以上も高く盛り上がっていることに気付く。落ち葉が森に返され、豊かな腐葉土となって森を育んでいる。

そして、御苑内には加藤清正が掘ったという清正井(きよまさのいど)がある。

この井戸は、まったくの自然の湧水で、今でもこんこんと清らかな水が湧き出し、涸れることがないそうだ。豊かな森によって育まれているこの水は、菖蒲田、南池を経て、神橋の下を流れてゆく。神橋付近は深山幽谷を思わせる渓谷となっている。この川は杜を出て、渋谷川へと流れ、やがて、東京湾へと注ぎ込む。

明治神宮の森は、美しい水を育む、都市の中の源流である。10月7日には、是非、この「森の音、水の響き」を聴いてほしい。

≫明治神宮奉納コンサート2002「森の音、水の響き」詳細へ
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2002/06/14:雨の中のジャパンブルー

日本中を熱狂させた日本代表のジャパンブルー。惜しくも雨の中の戦いに敗れたが、国際舞台で堂々と活躍するアスリートたちから感動と勇気をもらった。心からその健闘を称えたい。

さて、ワールドカップのスタートからここ何週間か日本は代表のユニフォームの青・ジャパンブルーの色に染まった。この青は、特に日本の伝統的な藍染めの色を意識したものではないそうだが、青・藍は日本を代表する色の一つだ。

明治8年に東京帝国大学の前身、開成学校に招聘されたイギリスの科学者アトキンソンは、藍染の衣服を着ている日本人があまりの多いのに驚き、「藍の説」という文章を残した。この中で藍を「ジャパンブルー」と表現し、その後、海外から日本を訪れる人々はこの藍の色を「ジャパンブルー」と呼んで賞賛した。

藍染めの染料となるタデ科の一年草「蓼藍」(タデアイ)は、染料としては飛鳥、奈良時代には既に用いられていたそうだ。江戸時代の末期にインドで作られるインド藍の染料・インディゴブルーが世界を制覇し、更に明治以降はヨーロッパで合成藍が発明され世界の主流となったが、藍染めの衣料はずっと私たちの暮らしの身近なところにあった。

「蓼藍」は水分の多い土地に栽培される。栽培地の一つであった京都・洛南の加茂川や西洞院川の三角地帯は水分が多い土地で、「京の水藍」と呼ばれていた。藍の産地の代表・徳島県の阿波は、四国山脈から紀伊水道に注ぐ暴れ川・吉野川の氾濫に困っていたが、桃山時代に藩主となった蜂須賀小六が氾濫する川の周辺に蓼藍を植えさせたことに始まる。

豊かな水によって育まれたジャパンブルー。その色は、染めの段階を経て「甕覗き(かめのぞき)」、「水浅葱(みずあさぎ)」、「薄縹(うすはなだ)」、「納戸(なんど)」、「藍」、「紺」、「搗(褐)色(かちいろ)」と美しい色相を描く。

「水の音原風景」プロジェクトでコシノジュンコさんにデザイン・制作いただいた「水の衣装」も阿波の藍染めだ。

98年のパリコレ衣装と一緒に作っていただいたものだが、先月その衣装の一部が新たに藍染めされた。コシノさんはずっとパンツの裾の部分も藍染めにしたらもっとこの衣装が美しくなると思っていたそうだ。コシノさんの衣装デザインによるオペラ「蝶々夫人」(7月28日〜31日、新国立劇場)の衣装が藍染めされるとのことで、急きょその衣装と一緒に裾の部分を藍染めすることとなった。

新たに生まれ変わったジャパンブルーの「水の衣装」。10月7日(月)に実施する明治神宮奉納コンサートで初お目見えする予定だ。

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2002/05/24:羊水を取りあげた作曲家

ウォーターネットワークの「水」の音楽プロジェクトに興味を持っていただいた作曲家・しかた宣男氏に会った。2002年3月にオープンした「アクアワールド茨城県大洗水族館」のイルカショーの音楽制作や企業のCM音楽制作などで活躍し、水と音楽というテーマを暖めている作曲家だ。

お会いして、何で水と音楽なんだろうねなどという話題から、水の音にやすらぎや安心感を感じるのは、母親の胎内で聴いていた羊水の水の音への懐かしさなんじゃないでしょうか、などと話をすると。しかた氏。「実は、先月3人目の子供が生まれたんです。3人目ということで、家でお産婆さんに御願いして産もうということで準備していて。いよいよ生まれそうな時にお産婆を呼んだのですが、お産婆さんが到着前に、もう生まれそうになっちゃったんです・・・。」

「もう、生まれる」という奥さんの言葉に、しかた氏は両手を広げ、生まれてきた子供を受けとめたそうだ。そして、何とそれは、“羊水に包まれたままの赤ちゃん”だった。薄い膜に包まれ水を湛えた赤ちゃん。すると、膜はすっと破れ、透明な水・羊水が流れ、赤ちゃんが誕生したそうだ。

不思議で、そして、感動的な話しだった。

作曲家・しかた氏と新たなる水の音楽プロジェクトが始まるかも知れない。

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2002/05/18:国境を越えるもの

衝撃的な映像が世界に配信されたのは10日前だった。中国・瀋陽領事館事件。

日本総領事館の敷地、日本への国境を越えようとする家族、それを阻止する武装警官。たたずむ日本領事職員。叫ぶ女性、泣く子供の姿。ビルの上から撮影されたこの映像はこの事実を明らかにしてくれた。

この事件を更に上空から俯瞰してみると、私たちの愚かさに気付くだろう。人類が生きるために必要な水、空気、太陽は自在に国境を越え、行き来している。もちろん、これらの資源は人類だけのものではなく、地球上で暮らす全ての生命・存在にとっての共有財産だ。

そう考えると大地も共有財産と言える。人の都合で線を引いて、主張し合っているにすぎない。

私たちの命の根源である「水」や「空気」は、国境を越え、人種・信条を超える。そのことを俯瞰して見ると、私たち人類がいかに愚かなことにエネルギーを無駄遣いしていることに気付く。

その気付きは、私たちが持つべき思いやりを改めて認識させてくれるかも知れない。泣き叫ぶ女性や子供がいたら、理由はともあれ、助け、抱き上げてあげたい。それは、街を歩いていて、倒れそうになった人や、目の不自由な人が行き先に迷っていたら、自然と手を出してあげる気持ちと一緒だろう。

自分も含め、日本人は大切なものを見失いつつあるのかも知れない。瀋陽の映像は私たちの心の今も映し出している。

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2002/05/05:陰陽五行の色

5月5日は端午の節句。「端午」の「端」は初めの意味で、「午」は「五」に通じ、「五月初めの五日」の意だそうです。

この日は、古くからショウブやヨモギを軒にさして邪気を払う風習があり、男子の節句となったのは江戸時代以降で、武者人形を飾ったり、鯉のぼりが立てられる。

滝や雲のようになびく吹き流しは、青、赤、黄、白、黒の五色で、陰陽道の木火土金水の五行を表し、邪気を祓う霊力があると信じられている。陰陽五行説は古代中国の哲理で、様々な現象を「陰」と「陽」、そして、万物を組成する五つの元になる要素「木・火・土・金・水」から読み解く。

「陰陽師」がブームになっているが、陰陽五行の思想は私たちの身近な場所にも様々な形で見ることができる。五行と対応した色、方位、季節があり、風水の「四神相応」と呼ばれる大吉の地形は、古くから日本でも都市計画上で考慮されてきた。東に川、西に道、南に池か海、北に山を持つ地形は、それぞれに青龍、白虎、朱雀、玄武といった空想上の神獣があてはめられている。京都や東京などもその地形と言われ、日本庭園にもその思想は取り入れられている。

実際、この四神相応の地形は自然の理にかなったもので、冬暖かく、夏涼しく、大気と水の適切な循環が生まれ、上流の森に雨を降らせ、川の流れを通じて豊かな水と肥沃な土壌やミネラルが運ばれる。自然を知り、その循環に逆らわずに生きることが、無駄なエネルギーを使わずに、快適な生活を営むための智恵だ。昔はあたりまえだったこのことが、これからの地球に最も必要とされる智恵かも知れない。

WSGの企画している五感で聴くJ-Expression第1回「陰陽の螺旋」では、多田浩二とArt Streamが、陰陽五行をテーマに紐によるインスタレーションを行なう。こちらにもご注目下さい。

≫五感で聴くJ-Expression詳細へ
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2002/04/23:プールの中の奇跡

久々に鎌倉に友の墓を訪ねた。

友は7年前のこの日、我々より少し早く旅立った。彼を思い出す度に、鮮やかに蘇ってくる記憶はプールの中の奇跡だ。

もう10年以上前、週末になると大学の友人たちとスポーツ施設でテニスに夢中になっていた。テニスコートもそれ程混んでいない所で、夏になれば静かなプールのデッキでゆっくりと過ごすことができた。

そんなある夏の出来事だった。日も傾きかけてそろそろ帰ろうかという頃、彼の結婚間近の彼女がコンタクトレンズをプールの中に落としてしまったのだ。25mのプールに透明なコンタクトレンズ2枚。「こりゃ無理だ」と心では思ったが、フィアンセの一大事、既に我々の仲間しかいないプールで大捜索が始まった。

一時間も捜索したろうか・・。あきらめかけていた我々に彼はいつもと違った真剣な態度で、我々の行動を仕切り始めた。一列になって進んだり、魚を追うように囲い込んだり。しかし、プールの閉まる時間が近づいてきた。彼は大きな深呼吸をすると「もう一度、皆で一列になって探して、なければ諦めよう」と声をかけた。やっぱりだめか、やっと終わるのかという気持ちで我々は進んだ。

そして、プールの端まで近づいた時、彼の声が誰もいないプールに響いた。「あった!」そして、その場でもう一度潜り、なんと二枚目もプールの中から拾い上げてきたのだ。奇跡を見た気がした。

ミスター早稲田から、大手出版社のエリート編集者として活躍し、34歳という若さで肺がんと闘い、逝った友。彼の思い残した分も頑張ろうと思う。

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2002/04/20:琵琶湖・淀川とナイル川

滋賀・大津で“ナイル川”を奏でる「水の音原風景」ミニコンサートが終了した。

作曲家・三宅一徳氏によるナイルをテーマとした新作「流転」は2つのパートからなる楽曲で、月の光の射し込む夜の静かなナイル、そして、赤々と昇る太陽の光が輝くナイル川、その姿を上空から俯瞰し上流から下流までダイナミックに辿るというようなイメージを想起するものだった。コンサート終了後、ナイル流域の水担当大臣の方から、この曲の入ったCDが是非欲しいと訴えられた。

さて、今回、「ナイル流域と琵琶湖・淀川」シンポジウムでの実施だったが、なんで琵琶湖でナイルなの?と思われる方も多いことでしょう。

実は、琵琶湖という大きな湖を上流に持つ淀川と、ビクトリア湖を上流に持つナイル川とでいろいろ共通点が多いという関係もあるとのこと。ご存知のように、ナイル川は全長6700kmの世界最長の大河。10ヶ国にまたがり、3億人もの人々がナイルの水を利用しているそうだ。

「エジプトはナイルのたまもの」と言われるように、ナイルは古代から多様な文化を育んできた。しかし、ナイル流域には餓えに苦しむ貧しい国々もあり、更に今後の人口増加で、水不足は極めて深刻な状況にあり、水を巡る紛争や内戦も続いてきた。このような背景からナイル流域の平和的な連携が進められており、今回のシンポジウムを通じ琵琶湖・淀川との共通問題が認識され、連携・協力を推し進めていくことが確認された。

私たち日本人には国境を越える川というイメージはピンとこない。東京では主に・利根川・荒川・多摩川の水を飲み水や生活用水として利用している。さて、群馬県・埼玉県・東京都と、それぞれが別の国だったら・・・。そんな視点で川を見るということも必要なのかも知れない。

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2002/04/08:五感を磨く

私たち人間の生命力は果たして向上してきたのだろうか。

昔から比べれば生きる長さにおいては、確かにその能力はアップしてきた。しかし、日本の古い美術や建築、伝統文化や伝統技術を知れば知る程、先人たちの研ぎ澄まされた感性に驚かされる。

日本の伝統的な染め物から生まれた繊細で美しい色文化。それらの伝統色は色そのものの美しさだけではなく、その色に名付けられた美しい言葉にも表されている。「黄櫨染(こうろぜん)」、「蘇芳(すおう)」、「半(はした)」、「萌葱(もえぎ)」、「曙(あけぼの)」、・・・。現代に生きる私たちが、今この色を名付けられるとは思えない。

かつて、人々は自然の営みとともに生きていた。季節や気候、天気の変化を五感で感じ、自然への畏敬と四季を愛でる心の豊かさを持っていた。その中でその感性が磨かれてきたのであろう。

これからの地球社会には、自然と様々な生命、そして、人間とが共生するための豊かな感性が必要だろう。それは、生命の永続性を図る戦略的な本能であり、本当の生きる力であろう。そして、その感性は磨かれた五感から生まれる。

味覚障害ということがテレビでよく言われるが、これはまさに生きる力の赤信号。香りや味覚、触覚。原始感覚を磨くことは、生きる力をつけることでもある。

今日から新学期。小中学校では総合学習が始まり、「生きる力」を目指した教育がスタートした。未来を担う子供たちが五感を磨き、本質を感じる力をつけていくことを期待したい。

私たち一人一人の五感が磨かれることが、「水の惑星」という生命体の生きる力につながるのではないかと思う。

追記

2000年7月にイサムノグチ彫刻庭園“天国”で実施した「五感で聴く・森の音、水の響き」に続き、今年2002年5月から青山で「五感で聴くJ-Expression」シリーズをスタートします。それぞれの感性で感じていただければと思います。

皆様のご参加お待ちしております。

≫五感で聴く「森の音、水の響き」詳細へ
≫五感で聴くJ-Expression詳細へ
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2002/03/22:水の日に思う

奈良東大寺の「お水取り」はそのお松明で知られているが、その名前の通り水を汲むことがこの行法の最大の儀式である。

「お水取り」は3月12日深夜(13日午前1時過ぎ)に始まる。ご本尊の十一面観音に供える水(香水:こうずい、閼伽:あか、若水:わかみず、とも言う)を若狭井という井戸から汲み上げる(「閼伽」は梵語で「水」を意味する)。二月堂の前方に位置する閼伽井屋(あかいや)は、若狭井を覆う建物で何重にも結界され、水を汲む人しか入ることができない。

室町時代に作られた「二月堂縁起」という絵巻にはこの香水の由来を説明する詞書がある。東大寺の初代別当であった良弁の弟子、実忠和尚が神名帳を読んで二月堂へ全国から神々を呼んだ際に、若狭の遠敷明神が魚を捕っていて遅れてしまい、その謝罪に二月堂近くに香水を出すと約束した。するとたちまち岩の中から白と黒の鵜が飛び出して近くの木にとまり、飛び出したところから泉が湧き出し、そこに石を積んで閼伽井とした。

遠敷明神は若狭地方・福井県小浜市にあり、閼伽の水はそこを流れる遠敷川の「鵜の瀬」から送られていると言われる由縁だ。日本海に面した若狭地方は、豊かな水の地で名水伝説や不老長寿伝説の残る地であり、このお水取りには不老不死を願う若水信仰も習合していると言われている。お正月の行事の中にも、「若水汲み」があり、年の始めに新しい水・若水を汲み、神へ供え家族の食事を調えるのに使われ、また、その水を飲むと一年の邪気を払うとされている。

水が持つ聖なる力への信仰は日本だけでなく、世界各地に共通して存在する。水や火、自然のものはただ一つとして人間には作れない。その神聖さに触れることは、私たちが何を大切にし、何をしなければいけないか知るきっかけとなる。

私たちの日々の生活で水はあたりまえのように存在し使っているが、一方で世界では年間に400万人の子供たちが汚れた水が原因で命を失っている。これが水の惑星・地球の現実だ。3月22日は国連水の日。日本で開催される第3回世界水フォーラムも一年後だ。私たち一人一人が何を感じ、何を実行するか。言い尽くされた言葉だが、私たちの命は限りある資源の上に成り立っている。改めて、そう自戒したい。

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2002/03/16:水と火の音世界を聴く

1250年間一度も絶えることなく毎年続けられてきた行法、奈良東大寺二月堂の「お水取り」を聴聞した。

「お松明(たいまつ)」で有名な「お水取り」は、「修二会(しゅにえ)」と呼ばれる仏教の行法で、天平勝宝四年(西暦752年)実忠和尚の創始とされる。毎年3月1日(旧暦の2月1日)から14日間、選ばれた11人の練行衆により過去の懺悔と「天下安穏、五穀成熟、万民豊楽」が秘仏十一面観音へ祈願される。「お水取り」というとテレビによく出る「お松明」が有名だが、今回、奥深い「お水取り」の世界に少し触れることができた。

3月12日、午後5時過ぎに二月堂へ行くと舞台の下は既にぎっしりと人で埋め尽くされていた。午後7時30分、二月堂のまわりの灯りが消され、鐘楼の鐘が鳴り響き、籠松明が登楼の階段を上がっていく。この松明は練行衆が二月堂に上堂するための先導で、夜半に行なわれる「お水取り」をひかえこの日はひときわ大きな松明が使われる。屋根の付いた階段を上がっていくその姿は、大きな火のかたまりが生き物のように階段を上がっていくようだ。

お松明
お松明に導かれ練行衆が二月堂に上堂する

二月堂の舞台に松明が上がると、人々の声がどよめく。松明の杉の葉がパチパチとはじけ、火の粉が飛び散り、巨大な火の玉が舞台を横切っていく。火の粉が最前列の拝観者に降りかかり、杉の葉の焼けるにおいが広がる。このお松明に先導されて練行衆が二月堂の内陣に入り、この夜の行が始まる。

夜中に再び二月堂へ行く。1時過ぎ、二月堂の周りに響く「ダッ、ダッ、ダッ」という音は、内陣で行なわれている「走りの行法」の「五体投地」の音だろうか。天上界の一昼夜が人間の四百歳にあたるということから、走ることで天界の時間に追いつこうとする。走る途中で自らの膝を板に打ちつけ、観音に懺悔する。

午前2時近くに「修二会」で最も重要な行法「お水取り」が始まった。「お水取り」は二月堂の下にある「若狭井」からお香水を汲み上げ、本尊の十一面観音に供える。練行衆が昇り降りする階段の脇で雅楽が奏でられ、大きなハス松明に先導された練行衆が若狭井に向う。水を汲むところは真っ暗で秘儀とされている。水が汲まれると香水桶をかつぎ、再び階段を上がっていく。再び雅楽が奏でられ、法螺貝が鳴り響く。神聖で厳かな世界だった。

その後、特別拝観として二月堂の内部の外陣から内陣を聴聞させていただいた。格子越しに蝋燭の薄明かりの中に練行衆の姿と須弥壇に供えられた椿・南天、積み上げられた餅などの壇供が美しく見える。声明の声、練行衆の履いている差懸(さしかけ、木靴)の音が響く。薄暗い中で行なわれている行法は、見るというよりも正に聴くという感じで、お水取りが「聴聞する」と言われる意味を感じた。

午前3時半過ぎには「達陀(だったん)」という非常に珍しい行法が始まった。燃えさかる大松明を抱えた火天が現われ、洒水器を持った水天がそれに向かい合う。松明が内陣を引きずりまわされ、火天が跳躍しながら松明を突き出す。水天は呼応して松明を洒水する。最後に松明が礼堂の床にほうり出される。法螺貝と錫杖、鈴が鳴り響く、木の床に火の粉が飛び散る。

春を呼ぶ「お水取り」、その音世界はものごとの根源を感じさせてくれるものであった。また、訪ねてみたいと思う。

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02/02/16:「水に浮かぶ森」の奇跡!?

不思議な映像を見た。今までに見たことのない水の景色。青い湖が連なり、森が水に浮かぶ。

2002年2月9日(土)に放映されたNHKスペシャル「水と森が生んだ奇跡」は、中国・チベット高原の東端にある九寨溝(きゅうさいこう)の神秘の世界に迫った。世界遺産に登録されているここ九寨溝は、長江(揚子江)の支流・岷江(みんこう)の上流、標高4000mを越える緑の谷に118もの湖と無数の滝が連なり、中国で最も注目されている場所だ。鏡のように風景を映し出す「鏡海」、湖面の陽光が火花を散らしたように煌く「火花海」、水のしぶきが無数の真珠にかわる「珍珠海」。一つ一つの湖に付けられた名前からも、その水の景色が浮かび上がる。

澄みきった水とそこに浮かぶ森の秘密は、地球の大きな循環にあった。4億年間、中国大陸は海を隔て2つに分かれていて、その海底は生き物や珊瑚の死骸で約2000mの石灰の層が蓄積した。その後の地殻プレートの移動で、その海底が隆起しこの山岳を形成したそうだ。九寨溝はその石灰の層を通ってきた湧き水によって形作られている。多量に溶け込んだ石灰が水中の細かい塵を核として沈着し、水は浄化される。水中に漂う石灰花と呼ばれる小さな粒が堤を徐々に形成し、水の中に森の大地を形成していく。湖が棚田のように連なり、その堤には森が育ち木々の根元を激しく水が流れてゆく。杉や檜、ポプラなど30種をこえる木々が激しい水の流れの中に育っている不思議な姿だ。普通、水の流れの中では種が流され、根も呼吸できず植物は育つことができないが、ここでは石灰質の堤が種を守り、植物も「呼吸根」という赤いヒゲのような特殊な根を水の中になびかせ、呼吸をしているという。

大きな地球の循環の中で生まれた美しい水の風景は、生きるために適応した神秘の森の姿であった。人類もかつては海の中で生きる生命であったと言われている。新しい時代・環境に生きるためには、自分を変え常に新しい自分をつくっていく必要があるのだろう。その中で、大きな流れ・循環の方向性を読み違えないようにすることが大切なんだと感じた。奇跡というものは、そのような努力や必然の中から生まれるものなのかも知れない。

〔参考〕:NHKスペシャル・ホームページ
放送記録>2002年放送記録>2月>2/9(土)「森と水が生んだ奇跡〜世界遺産 中国・九寨溝〜」>問い合わせメモ
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2002/02/10:一期一会

2月4日の立春も過ぎ、旧暦でいうところの新年となった。昨年を振り返ってみると、初めての海外ツアーである「水の音原風景」南米ツアー2001を実施できたことは、まさに「一期一会」と言える。

9月3日に成田を出発し9月12日にブエノスアイレスを出発し帰国するというスケジュールは、出発の2ヶ月前ぎりぎりに現地との橋渡しをしていただいた日本ラテンアメリカ交流協会の山本美智子さんによる調整で決定した。当初、ブエノスアイレスから入り最後にイグアスの滝に入るというスケジュールも、最初にイグアスの滝に入ることに変更された。

出発の3週間前、海外ツアーの実施の話を第3回世界水フォーラムの事務局の方に話しにいくと、恐ろしい偶然に出くわす。9月4日、イグアスの滝があるブラジル・フォスドイグアスに入るという話をすると、事務局の二人がまさに同じ日にフォスドイグアスにいるというのだ・・・。お互い驚きを通り越して、笑うしかなかった。北米・中米・南米の水に関る国際会議がまさに開催されており、しかも、この地で開かれることは三十数年に一度のことだという。そこで急きょ、その国際会議で「水の音原風景」のプレゼンテーションとミニコンサートを実施することとなる。日本から30時間の長旅の後、4日の午前中にフォスドイグアスに到着する。予定に入っていなかった到着日の実施ということで、演奏家の方々にはとんでもない負担をかけてしまったが、アメリカ大陸から集まった水に関る800人以上の方々に共感いただくことができた。

そして、9月11日の米国同時多発テロ。4ヶ国を移動し7ヶ所でのコンサートが全て終了したのが9月10日。12日に帰国の途につくことはできなくなってしまったが、もし、このテロが日本からの出発前だったり、ツアー中だったら、ということを考えると恐ろしくなる。

更に、帰国後に度々報道されるアルゼンチンの経済危機や混乱。慌しいけれども、とても大人の洒落た街であるブエノスアイレス。その後の報道で見る暴動や混乱の姿は今振り返ってもとても想像できるものではない。
「もし、米国テロの後の出発だったら・・・」
「もし、今年だったら・・・」
このツアーが困難極まりないものであったことは間違いない。

「水の音原風景」プロジェクトは、「一期一会」ということをいつも実感させられる。コシノジュンコさんの衣裳協力。98年荒川源流・霧に包まれた舞台。自然や地球に生きるということは、その一瞬一瞬が変化し、二度と同じ状況は生まれない。その一瞬の風を感じ、大切にする気持ちから「一期一会」が生まれるのかも知れない。

地球をとりまく大きな流れ、そして、日々刻々とかわる小さな流れ。その変化の渦の中で、「思い」を持ちつづけ、恐れず動くということが、「一期一会」の時を自分に与えてくれるのかも知れない。

そう自戒し、新しい春に向けて始動したい。

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2002/01/27:水の世紀

今年は1992年ブラジル・リオデジャネイロで開かれた地球サミットから10年。その節目の年、今年8月に南アフリカ共和国で国連の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルク・サミット)」が開かれる。

この10年間で新たに深刻化している課題が「淡水資源問題」。国連の予測では世界の水使用料は2025年には利用可能な水量のほぼ9割に達し、各地で水不足に陥る可能性があるそうだ。水質汚染、渇水と洪水、地球温暖化による海水面の上昇。飲み水を巡る紛争。21世紀は「水危機の世紀」と言われているが、「水の惑星」である地球にとって最大の危機なのではないだろうか。その危機を生み出している原因は人間のエゴ。目先のことにとらわれず、澄んだ水の心で、もう一度地球の未来を見つめ直してみたい。

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2002/01/26:コシノジュンコさん出版パーティの舞台裏から

料理ディスプレイ
コシノジュンコデザインの漆器と料理

世界的なデザイナーであるコシノジュンコさんの出版パーティが1月24日(木)に開かれ、「水の音原風景」プロジェクトの和楽器演奏を依頼され実施させていただいた。1997年にコシノ先生に、「水の音原風景」の衣装を制作いただいた時からこのプロジェクトを応援していただいている。

今回、青山・霞町交差点近くに昨年建設された新本社ビルのホールでパーティが行なわれ、その準備の舞台裏も覗かせていただいた。コシノ先生の東京コレクションなどファッションショーの会場やその後のパーティなどの空間演出・デザインもまた見事なものだ。今回、パーティ会場の料理はオリジナルデザインの漆器に並べられ、コシノ先生自らがその配置や配色に目を光らす。その漆器に、「NOBU TOKYO」による料理が、これまた美しく並べられる。手を付けるのがもったいない美しさだ。お客様が食事を取る木のトレイも美しい。

パーティは、芸能界・政界・経済界のお歴々で有名人のオンパレード。松岡きっこさん、谷隼人さんの司会で盛り上がる。萬田久子さんは美しかった。コシノ先生から突然の指名で、和楽器演奏と「水の音原風景」について舞台で説明することになってしまい、冷や汗もんだった。

コシノ先生も改めて「和」を表現する時代になったとおっしゃられていた。コシノ先生とこの「水の音原風景」プロジェクトの関係は更に続く・・・。

今回は次の本の出版記念ということで実施されました。

どの本もなかなか読み応えあります。ご出版おめでとうございます。

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2002/01/21:水と火

川の流れからスタートした「水の音原風景」プロジェクト。そのテーマは、上流の森から、海を通じたグローバルな展開へと発展してきた。

そして、今年、そのテーマは上流の森から更に天へ向っていくことになりそうだ。現在、4月に“ナイル川”をテーマにしたミニコンサートを滋賀大津で実施する予定だ。第3回世界水フォーラムとの連携で、ナイル川流域閣僚会議に伴うシンポジウムでのプレゼンテーションだ。

ご存知のように、ナイル川は、全長6700km世界一の大河で、エジプトの母なる大河である。古代四大文明が大河のほとりに栄えたように、この豊かなナイルの流れにより古代エジプト文明は繁栄した。熱い太陽により砂漠は生まれ。また、その太陽の動きによりナイル川は氾濫し、豊かな緑の大地が生まれる。ピラミッドは太陽、天へ近づくためのものか?ナイル川の東は人が生き、生活する場で、人が亡くなるとナイル川を船で渡り、西に葬られるという。遺跡やピラミッドがナイル川の西側に多いのもそのためだそうだ。

水と火、陰と陽。その対極なるものからエネルギーが生まれる。水の旅は、火の旅へと続く。

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2002/01/11:水の音楽

1996年に設立された世界水会議(WWC:World Water Council)。アジアで始めての開催となる第3回世界水フォーラムが2003年3月に京都・滋賀・大阪で開催されます。

危機に直面している水。「水を巡る紛争」「水や食料の不足」「水質汚染による不衛生な生活条件」「洪水の危機」、このような水に関するあらゆる問題を解決するために「世界水フォーラム」はスタートしました。政府、専門家、NGO、一般市民などあらゆる人々が一堂に介し、議論し、その重要性を広く世界にアピールしています。

また、第3回世界水フォーラムのホームページにはインターネットを通じたバーチャル・フォーラムが開催されています。

ウォーターネットワークは、ここで「水と音楽」の会議室を運営しております。是非、この会議室にもご参加下さい。「水の音楽」のページもご覧下さい。

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2001/09/17:米国テロの影響

南米ツアーは4ヶ国7ヶ所連続公演で一日も休みなしで、演奏家の皆様には申し訳ないことをしたと思っています。州知事の奥さんの先導での国境を越え、空港から直接会場入りなど、綱渡りのスケジュールでした。

9月10日に全ての公演を終わり、翌11日が唯一のフリーの日。市内のショッピングセンターを歩いていると、通路のスクリーンに人だかり。見てみると、マンハッタンが煙に包まれていて、ただごとではない様子。ホテルへ戻り、旅行会社の人と話しをすると翌日の帰りの飛行機が飛ぶかわからないとのこと。帰りの飛行機はブエノスアイレスからリオデジャネイロ・ロサンジェルス経由のもの。CNNにクギ付けとなった我々は、ひたすら旅行会社からのブッキング情報を待つ。足止めとなった一行は少し安いホテルに宿をかえる。

なぜか先にブッキングが入ってしまい当方のみ一足早い帰国となってしまったが、結局演奏家の方々と関係者は3日間の足止めとなってしまった。帰国直後に予定されていた演奏キャンセルなど、またまた、演奏家の皆さんにご迷惑をおかけしてしまった。海外公演の大変さを知ったツアーでした。

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2001/09/05:イグアスの滝に癒される

2001年9月に実施した初の海外ツアー。これまでパナマ運河、スウェーデンの森と湖など地球規模の水のつながりをテーマにしてきましたが、初めて国境を越える水を辿ることに。

イグアスの滝は世界3大瀑布の一つで、ツアーはここからスタート。想像を絶する規模と轟音。尺八と鼓によるデモンストレーションの後、滝の見学に。一番奥の「悪魔の喉笛」と呼ばれる場所は、遊歩道が滝の上に作られていている。誰がこんな場所にこんなものを作ったんだ?という感じ。思いっきり水しぶきを浴びるが、めちゃめちゃ気持ちいい。尺八の田辺さん、鼓の望月さん、筝の木田さんも思いっきり濡れながら、満面の笑顔。30時間かけてたどり着いた疲れが癒される一時でした。

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