歌、筝、十七絃、雅楽器、メロディオンにより独自の音世界を創るT's colorのセカンドアルバム。全ての演奏を雅楽ピッチ(A=430Hz)に統一し、雅楽的な手法や間合いを取り入れ、日本的な音風景を感じさせる。
実力派の演奏家によるこの新しい音世界は、この時代に生きる人々の感性に訴えかけるとともに、日本人がかつて持っていたおおらかな感性をも呼び覚まさせてくれるだろう。
〔発売元:430 records〕
私が初めて T's color を聴きました時に、「ア、これは現代の催馬楽だ」と感じました。しかし、それは古代の催馬楽を現代に活かしていると思ったのではありません。その昔に催馬楽という歌曲が興ったときのことを考えたのであります。明治の御維新で江戸時代からの鎖国が解かれて、ヨーロッパやアメリカの音楽が堰を切ったように日本に入ってきました。西洋の管弦楽を初めて聞いた明治人の驚きはいかばかりであったでしょう。それと同じことが一三〇〇年も昔に、当時の人々の憧れの大陸である中国(唐)より、それまで聞いたこともない大きいスケールの音楽(雅楽)を伝えられた天平人にも申せましょう。奈良の朝廷はただちに、国家の仕事として雅楽寮を設置し、伝習生を養成し普及を計ったのでありますが、後に明治政府が東京音楽学校(現芸大)を開設したのとも、事情が似通っております。とにかくそのお陰で平安期には、伝来した管絃・舞楽をすべて自家薬籠中のものとし、その勢ひをかって、大和朝廷からの古代歌曲も見事に編成仕直し、更に雅楽をコンパクトにした伴奏で以って、唐にはない日本独自の歌曲を確立したのでありますが、それが催馬楽であります。
神への賛歌から恋歌、町の出来事やお国自慢、はては猥歌の類までをも楽曲に取り上げて、すべてをおほらかに歌ひあげた催馬楽の、その自在な音楽性を T's color に感じました。マンダラの地下での公演とともに、青空の下でもやってもらいたい。私も、もし気軽に琵琶が弾けたら、歌へたら、歌ってみたいと思うのであります。